糖尿病糖尿病

2型糖尿病診療について

 2型糖尿病は、無症状の場合が多く、境界型(前糖尿病状態)といわれる初期の段階から動脈硬化が進行する危険性が指摘されています。またメタボリックシンドロームによる境界型、糖尿病の場合、初期の段階から認められる高インスリン血症による発癌の危険性も示唆されています。重要な点は、糖処理能力低下(耐糖能異常)の初期の段階から致命的な心筋梗塞、脳卒中、癌の危険性が出てくるということです。無症状の中高年の方こそ早期の治療を開始し突然の心筋梗塞や脳卒中、更には癌を未然に防がなくてはなりません。メタボリックシンドロームの方は特に早期治療の必要があります。また糖尿病を長期放置しておくと眼、腎臓、神経の三大合併症も出現し失明、血液透析、壊疽による足切断の状態になる恐れがあります。糖尿病は早期に治療開始すれば合併症が予防できることがわかってきています。そのためには糖尿病境界型(前糖尿病状態)、糖尿病を早期に発見することが重要になります。そしてヘモグロビンA1c(JDS値)が5.2%以上6%以下ではブドウ糖負荷試験による診断が必要な場合があります。
 激増している2型糖尿病に対して那珂川病院総合診療科で約11年間の長期に渡り多くの糖尿病患者さんを継続して診てきた臨床経験を生かして糖尿病合併症を起こさないための総合的治療を行っております。糖尿病のようなほぼ無症状の慢性疾患の治療には長年同じ患者さんを診てその治療効果を確認していく臨床経験が非常に大切です。数年毎に病院を転勤しながらの臨床経験では治療効果を確認することは困難です。また、糖尿病は多臓器に異常を引き起こすため、糖尿病診療こそ内科全般の知識と経験が必要な総合診療であるべきであると考えます。血糖コントロールだけでなく幅広い内科臨床経験が必須です。
 現在、2型糖尿病に対する治療方針は世界中で、そして日本国内でも混沌としている状況です。医師によって治療方法が違います。大規模臨床試験の結果、単に血糖値を下げればすべて解決するのではないことが判明してきたからです。今後はどのような治療法で血糖値を下げるかが患者さんの寿命に決定的な影響を与えると考えています。私は、血中インスリン濃度をできるだけ上げずに血糖値を下げていく治療方針が大切であると考えます。インスリンもホルモンでありインスリン抵抗性の病態では高い血中インスリン濃度は動脈硬化や悪性腫瘍の原因になると考えられているからです。また最新の抗加齢医学でも長寿者は血中インスリン濃度が低いことが指摘されています。そのためにはインスリン抵抗性改善薬などインスリン分泌を刺激しない薬剤の適切な使用が重要となります。そのような経口薬の組み合わせでインスリンからの離脱が可能な場合もあります。また糖尿病合併症予防のためには体内の正常分子から電子を奪い取り細胞に障害を起こす活性酸素に対する抗酸化アプローチも必要であると考えます。更には運動療法も重要ですが実行困難なありきたりの方法ではなく簡単にできる現実的な方法を考えお薦めしています。

 当診療所では院内検査として正確に短時間でHbA1cを測定できる最新型アークレイ社HbA1c測定装置(HPLC法)を使用しております。

参考文献
山本哲郎 「転換期の2型糖尿病治療」 臨床と研究 第86巻 第12号、第53回日本糖尿病学会抄録
山本哲郎 「インスリン抵抗性改善剤併用によるインスリン離脱療法」 第56回日本糖尿病学会抄録

糖尿病のメトホルミン療法について

 今、2型糖尿病治療において、日本ではインクレチン関連薬(DPP4阻害薬、GLP−1受容体作動薬)が注目されており多くの医師が第1選択薬として使用し始めています。しかしながらこれらの薬剤は日本で発売後約4年しか経っておらず長期の副作用も含め未知の点が多くある薬剤です。確かに膵β細胞量調節作用など期待している薬剤ですが、第1選択薬とするには時期尚早であると思えます。

 現時点において私は、メトホルミンを第1選択薬として使用しています。この薬剤は約50年前にフランスで薬用植物から作られた薬で大規模臨床試験においても心筋梗塞など血管合併症の予防効果が実証されており、さらには近年癌予防効果や癌死亡率低下など抗腫瘍作用が多数報告されています。米国では約20年前より再評価され、肥満の有無に関係なく糖尿病と診断されたその日から服用開始すべき薬剤として高く評価されています。インスリン抵抗性改善作用(インスリンの効き目が良くなる)による血糖降下作用体重増加抑制作用、抗炎症作用、抗酸化作用があり、低血糖も起こしにくく、薬価も安く、安全性も確立された薬剤です。ただし腎不全やアルコール依存症の方は禁忌となります。更に約4年前より日本でも従来の一日量750mgから最大2250mgまで使用可能となり期待通りの血糖降下作用を認めています。しかしながら、日本では残念ながら、まだ多くの糖尿病患者さんがこの薬剤の恩恵を受けていません。日本は依然として、インスリン分泌促進薬であるSU剤を中心とした治療が主流で、新薬であるインクレチン関連薬がそれに加わった状況です。今の日本の糖尿病治療は混沌としているのです。

 

参考文献

1.Current medical diagnosis and treatment 2012 1177
2. C.J Currie et al. Mortality after incident cancer in people with and without type 2 diabetes: impact of metformin on survival Diabetes Care 35:299-304. 2012

ピオグリタゾン(アクトス®)の高い再評価について

 今、日本糖尿病学会では新薬のインクレチン関連薬(DPP-4阻害薬、GLP-1受容体作動薬)やSGLT2阻害薬の話ばかりですが、海外では、ピオグリタゾン(アクトス®)が高く再評価されてきています。フランスの後ろ向き研究で問題になった膀胱癌の件では、この研究に対して専門家から異議が出されています。更に、米国で始まった前向き研究の約8年の経過を見ると膀胱癌発症率の増加はなかったのです。またピオグリタゾンは、今ある糖尿病薬の中、メトホルミンと共に大規模前向き試験で心筋梗塞や脳卒中を予防することが証明された薬剤です。そして他の糖尿病薬と比較して総死亡率が最も低いという報告もあります。ピオグリタゾンは膵ベータ細胞の脂肪を取り除き膵ベータ細胞機能を改善させ,膵臓を根本的に治す作用があるのです。また血管内脂肪を除去し動脈硬化改善作用や血管内皮機能改善作用があります。すなわち血栓予防効果があり心筋梗塞や脳卒中を予防することができます。
 インスリン抵抗性の研究で著名な米国テキサス大学のデフロンゾ教授はピオグリタゾン中心の糖尿病治療を今でも提唱されています。そして約10年間にわたるピオグリタゾンの私の臨床経験でも心筋梗塞や脳卒中の予防効果を実感しております。
 糖尿病の治療薬は、最低でも10年の時間の試練に耐えられなければ信頼できないと考えています。時間の重みをおろそかにしてはなりません。糖尿病新薬は癌の新薬とは違い、より厳しい長期的効果と長期的安全性が求められます。インクレチン関連薬や今話題のSGLT2阻害薬は共にまだこの条件を満たしておりません。命を守るという観点から、ピオグリタゾンは発売後約14年が過ぎ、今後メトホルミンと共に糖尿病治療の中心になるべき薬剤であると確信しています。

参考文献
Ralph A. Defronzo et al.
Pathophysiologic approach to therapy in patients with
newly diagnosed type 2 diabetes Diabetes Care 2013;36